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『CONNECT+』Vol.23:地域企業の突破口【燕三条 工場の祭典】
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掲載日:2026年10月16日
地域企業の突破口
~共創からはじまるInnovation~
「共創」は企業にどんな変革をもたらすのでしょうか。
地域企業が成長し続けるためには、異なる企業や産業の枠を越えて「共創」し、新しい価値を創出することが求められます。
「地域企業の突破口」では、東北の企業や自治体の先端共創事例を特集していきます。
CASE23 便乗を生む“地域の旗印”
6万人を集めたのは、○○
4日間で、全国から延べ6万人を超える人が集まる祭典がある。販売額は同期間で5,700万円を超え、参加企業は年々増加。2026年には、過去最多となる158社が名を連ねる。さらに、2021年に特別開催した展覧会は、世界的なデザイン賞「Red Dot Design Award 2022」で最高賞のグランプリを受賞した。
だが、ステージの上にスターがいるわけでも、夜空に花火が上がるわけでもない。その主役は、工場だ。
しかも、集まるのは熱心なものづくりファンだけではない。子ども連れの家族から女性、若者まで、世代や属性を問わず人が行き交う。無骨な機械が並ぶ工場に、老若男女が足を運ぶ光景が、この地域では当たり前になりつつある。
なぜ、これほどの人が「工場を見るため」に、わざわざ燕三条へやって来るのか。
工場が、6万人を呼ぶ場所になるまで。その過程をたどる。

全国から老若男女が集まる、工場の祭典 (提供:燕物産株式会社)
見せたくないものほど価値になる
「見せるもんじゃない。真似される」――工場を開くという発想は、ものづくりの世界の常識とは真逆だった。
「燕三条 工場の祭典」。新潟県のほぼ中央にある、燕三条。毎年秋、この地域では普段閉ざされている工場の扉が一斉に開く。来場者は工場を訪ね、機械が動く音を聞き、職人の手仕事を間近で見る。製品を買うだけではない。加工を体験し、つくり手と言葉を交わしながら、一つの製品が生まれるまでの背景をたどっていく。
燕三条では後継者不足や廃業など、産地の持続に対する危機感があった。そこで地域の有志が考えたのが、完成品だけでなく、ものづくりの現場そのものを見せることだった。
ただ、工場には、長い時間をかけて培ってきたノウハウがある。競合に工程を見せれば、技術を真似される可能性だってある。
「見せるものではない。」長く競争の世界を生きてきた経営者にとって、その感覚はむしろ自然だった。2026年度実行委員長・捧氏も、自社の参加時に父から反対されたという。
それでも、「怖がっていたら人は来ない。業界にも関心を持ってもらえない」と工場を開いた。もちろん企業秘密は守る。それでも、職人の手仕事、機械の音、工程の工夫など、外に伝えられる価値は十分にあった。
派手な観光コンテンツを新しくつくるのではない。機械が動く音、職人の手、現場に流れる時間。これまで観光資源とは思われてこなかった「ありのままのものづくりの風景」そのものに価値があるという考え方だ。それが、燕三条の突破口だった。

日常生活では見ることのできないものづくりの裏側(提供:株式会社三条特殊鋳工所)
2つの市をつないだ、民間の旗
「燕三条」は1つの市の名前ではない。燕市と三条市、二つの行政区域をまたぐ産地だ。しかし、ものづくりの現場では、もともとその境界は薄かった。完成品になるまでに複数の企業を渡る分業文化が根づき、行政区が二つに分かれていても、産業は最初から一つのネットワークとして動いてきた。
だからこそ、祭典でも先に動くのは行政ではなく、現場だ。
2024年からは、燕・三条双方の商工会議所青年部や参加企業の有志が実行委員会をつくり、民間が主体となって運営する。双方の事業者が「こうしたい」という意志を持つ。その声が両市へ届く。すると行政側も、「現場がそう考えているなら支援しよう」と動きやすくなる。
実際、「工場の祭典」には燕市、三条市の双方が関わり、資金面でも支えている。一つの地域イベントに、二つの自治体がそろってお金を出すのは、決して当たり前ではない。 それが成立している背景には、行政区を越えて共有された現場の意思がある。
地域の課題に対して、最初の一歩を踏み出したのは民間だった。その意思に行政が呼応し、取り組みは地域全体へ広がっていった。 「工場の祭典」は、地域を直接動かしているというより、地域が自ら動き出すための旗印になったのである。

参加企業同士が交流や意見交換を行う工場ミーティング
「自分たちも」が祭典を広げる
さらに面白いのは、「工場の祭典」が主催者の枠を越えるほど、地域に広がっていることだ。
参加する事業者は燕市・三条市だけではなく、周辺地域にも広がっている。
燕三条全域を回ろうとすれば、移動は決して楽ではない。だが、それこそがこの産地ならではの面白さでもある。燕三条は、一社ですべてをつくるのではなく、複数の企業が工程を受け持つ「分業の町」だ。ある工場で形をつくり、別の工場で加工し、さらに別の工場で磨く。工場を転々とすることで、一つの製品が完成していく過程を、街を巡りながら追体験できる。
そして、その人の流れに周囲も乗り始める。新潟県三条市に本社を構える株式会社スノーピークは、2015年に祭典に合わせ、本社で焚火台を囲むレセプションパーティーを独自に開催。株式会社ベルモントも2025年、ふるまいや体験、限定品販売を行う「ベルモント祭」を同時開催するなど、工場の外でも、祭典に人が集まるなら「自分たちも何かやろう」という動きが生まれている。
誰かがつくった祭典に参加するだけではない。その熱を、自分たちなりに“乗っ取って”広げていく。そうした便乗が新しい人を呼び、また別の動きを生む。「工場の祭典」は、人が人を動かす熱を、地域全体へ増幅させる装置になっている。

参加者は、広大なエリアを巡りながら製品ができるまでを追う(提供:燕物産株式会社)
祭りの後が、本番
工場の扉が開くのは4日間。
しかし、本当に盛り上げたいのは、その後の361日、さらにその先の10年後だという。
「イベント自体を盛り上げたいわけじゃないんですよ」。取材の終盤、捧氏はそう語った。祭典を訪れた人が、翌年また燕三条へ来る。製品を買う。職人に会う。仕事を発注する。あるいは、この地域で働き始める。そうなれば、来場者は単なるイベント客ではなく、燕三条と接点を持ち続ける「地域の資産」になる。実際、祭典をきっかけに工場を開くようになった企業や、採用につながった例も生まれている。
そして10年後に描くのが、「メイカースケープ(MakerScape)」という構想だ。新しい観光地をつくるのではなく、工場が点在し、職人が働く“ものづくりの風景”そのものを残していく。「見せるものではない」とされてきた工場を開くことから始まった挑戦は、今や、4日間の祭典を超えて、365日続く産地の未来をつくる段階へ進んでいる。
燕三条が10年以上かけてつくってきたのは、6万人を集めるイベントではない。地域に眠る価値を、地域の人自身がひらき、みんなが便乗できる「旗」を立てる仕組みなのかもしれない。

左からトークネット太田、2026年度実行委員長・捧(ささげ)氏、トークネット中畑
インタビューの全編動画はYouTubeで公開中!
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