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『CONNECT+』Vol.19:特別インタビュー

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掲載日:2026年3月27日

捨てられた価値が地域自走の熱源に

湖の「厄介者」が、世界の「至宝」へ

創業からわずか数ヶ月で、環境大臣賞、郡山市SDGsアワードを受賞、ふくしまベンチャーアワード優秀賞。立ち上げ期こそ地域の支援制度を活用してスタートした「株式会社いなびし」だが、現在は補助金に依存することなく事業として回り、全国から注文が殺到する存在へと成長。今やふるさと納税の返礼品や高級旅館のウェルカムドリンクとして、猪苗代町に外貨や人を呼び込む「新たなコンテンツ」となっている。 その原料が、猪苗代湖の「厄介者」だ。

毎年夏、猪苗代湖は水草「ヒシ」に覆われる。秋には腐敗し、鋭い実で怪我をする観光客も出る。行政も回収や処理で手を焼いてきた、まさに“厄介者”だった。 この厄介者を、外貨を稼ぐ商品へ。地域おこし協力隊から起業した長友海夢氏が挑んだのは、単なる商品開発ではない。のちに福島県最年少で議員も務めるが、その延長線上にあったのは一貫して、地域の課題に向き合い続ける姿勢だった。

 

猪苗代湖のヒシを採取する様子

  

戦略的潜伏

「経験もスキルも知識も人脈も、何もなかった」 協力隊として猪苗代に来た時、長友氏は社会人3年目になったばかり。それまでのキャリアは営業職のみだった。しかし協力隊の面接で、彼は既に宣言していた。「3年後、会社を作って起業します。そして議員にも挑戦したい」 。そこで徹底したのは「地域の一員になる」ことだ。飲み歩き、祭りに参加し、地元の人と酒を酌み交わす。色んな仕事にも首を突っ込んだ。一見すると遊んでいるようにも見える。しかしこれは、本気で地域を知るための時間だった。 「ここにはこんな課題があって」「強みは?弱みは?」——1年目はマーケットリサーチに徹し、地道に、しかし貪欲に情報を集めた。

その過程では様々な挑戦もした。新電力プラン「いなわしろ電気」はコロナ禍の電力情勢で頓挫し、そば粉を使った化粧品は薬事法の壁にぶつかった。箸にも棒にもかからない取り組みは山ほどあったが、「1つ1つの事業に過度なリスクを背負わず、失敗してもどうにかなる」メンタルで走り続けた。試行錯誤の連続だった。

そして2022年7月、株式会社いなびしを設立。泥臭く地域を歩き回った3年間が、信頼という最強の資本を築き、「海夢くんなら応援する」行政も、地元企業も、住民も、協力を惜しまなかった。

 

科学×逆境「お節介」を仕組みに変える

当時2526歳の長友氏が狙っていたのは、会津の日本酒とヒシを掛け合わせた商品だった。しかし2020年はコロナ真っ只中。酒蔵も厳しい状況で、新商品開発どころではなかった。殻を剥いた「おつまみ」は惨敗。行き詰まった長友氏が頼ったのは、直感ではなく「データ」だった。 ネットで見つけた西九州大学・安田みどり教授によるヒシの研究。血糖値を下げる効果、シワ改善の可能性、5種類のポリフェノール。「殻ごと使えば剥く手間もない。そしてお茶なら都会の健康層に売れる」——ターゲットを一気にシフトし、逆境が転機に変わった瞬間だった。 しかし技術はなかった。そこで徹底的に専門家を巻き込んだ。安田教授から栄養学的知見を得て、福島県ハイテクプラザから乾燥技術の支援を受けた。

クラウドファンディングでは191人から214万円を調達した。自分にできないことは、他人に任せる。自分が前に出るより、適任を前に出す。SNSを動かし、賞に応募し、記事を増やす。やっていることは一見シンプルだ。しかし多くの地域ベンチャーが同じことをやっても埋もれていく。長友氏と彼らを分けたものは何だったのか。 それは、商品そのものに「物語」と「社会的必然性」があったことだ。湖の厄介者が健康茶になる。環境保全と経済発展が両立する。この誰も否定できない「循環構造」がメディアの関心を射貫いた。テレビで紹介されると、視聴者が「ヒシ」と検索する。すると、いなびしの事例が検索結果に並ぶ。地道にSNSを動かし、記事を積み重ね、情報の受け皿で確実にファンを掴んでいった。

「ボランティアという名の善意は、いずれ限界が来る」。だから彼は、地域課題の解決を「稼げる仕事」として再定義する。空き家を宿に変え、桜の枝を商品に変え、関わった人が得をする形にする。その積み重ねによって、住民が「外様(とざま)」の事業を自分事として応援し始める。それが、長友氏が描いた共創だった。

 

商品化した『ひし茶』

 

議員バッジは、武器か盾か

長友氏は、二度「壁」にぶつかった。一度目は起業家として。空き家を活用したい、移住者を増やしたい——しかし民間1社の力だけでは、行政の制度という見えない壁を超えられない。地域を変えたいのに、変えられない。その歯がゆさが、長友氏を議員選挙へと駆り立てた。

二度目は議員として。27歳で福島県内最年少で町議会議員になり、内側から制度を動かそうとした。しかし今度は別の壁が立ちはだかった。利益相反を疑われる。「自社の利益誘導ではないか」という批判や時間的制約。議員だからこそできることもあれば、動きづらくなる部分もあった。「大変ですよ」と長友氏は笑う。起業家だけでは届かず、議員だけでも動けない。ならば、両方やるしかない。空き家活用を一般質問で取り上げ、自ら空き家を購入して宿に変える。移住施策を提案し、自ら移住者として地域に根を張る。議会で語る言葉には、泥臭い現場の実践が裏打ちされている。「常にアウトプットしている感じでした」。経営者としての実践と、議員としての発信。この二つが掛け合わさることで、長友氏は「外様の起業家」から「地域の未来を語る資格を持つ者」へと変わった。

  

広大な猪苗代湖

  

猪苗代が示す、地域の自立

「ヒシの実は忍者が使った撒菱の原型。“Ninja Tea”として海外に売り出したい」

ヒシ茶は、湖の環境保全から生まれた商品だ。だが、環境という文脈だけでは市場は広がらない。価格も上がらない。だから外に出る。国外への輸出は、その可能性を探る一歩だ。忍者という物語は、日本の消費者ではなく、海外の人々に向けた翻訳でもある。

ヒシの葉を染料にする。実をアクセサリーにする。それは“拡大”というより、資源を余さずに使い切る設計だ。だが、彼の視点は商品で止まっていない。「猪苗代町を、新しいことをやろうとする人間を止めない町にしたい」地域おこし協力隊から起業し、議会にも立った。その軌跡は、前例というより“証明”に近い。ゼロからでも、ここで事業はつくれる。外様でも、ここで信頼は積める。補助金ではなく、事業で回る仕組みが地域に残っているか。そこに次の挑戦者が現れたとき、「やれる」と思える町になっているか。10年後、猪苗代湖から始まったこの設計図は、日本中の「厄介者」を資源に変えているかもしれない。「やれることは全部やっていきたい」。猪苗代から世界へ。30歳の若者の挑戦が、次の誰かの背中を押している。

 

(写真左から)トークネット太田、株式会社いなびし 長友氏、トークネット中畑

 

 

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