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『CONNECT+』Vol.17:特別インタビュー

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掲載日:2025年11月28日

覚悟ある母の“半分の力”が社会を変える

食の概念を変える時代がそこまで

台所から始まったひとりの主婦の挑戦が、日本の食の常識を揺さぶっている。

山形発のベビーフードブランド「太陽と月のひかり」は、発売からわずか数年で2万食を突破。山形市創業アワード最優秀賞、山形エクセレントデザイン展入賞と、地域の名だたる表彰にその名を刻んだ。さらには、大学学食の企画・運営にも関わり、メニュー構成を手がけるなど、100種類を超えるメニューで毎日何百人もの学生の健康を支えている。


どれも派手なマーケティングの結果や資本力ではなく、わが子の命を守るための一食から生まれたもの。その小さな決意が、いま、食の概念を変えようとしている。


 

浅野代表のママ友がパッケージのデザインをした「太陽と月のひかり」

 

食べるものが無い!

「この子をどうやって生かしていこう」──ミルクや卵、小麦だけでなく、バナナや魚、調理の湯気にまで命の危険が潜む。上の子のごはんを作りながら、重度の食物アレルギーを抱えた第4子を注意深く見守り、匂いや湯気ひとつにも神経を研ぎ澄ませる。そんな日常が続き、心身ともに限界を感じる日々が続いた。

市場を探しても、求める「本当にシンプルで安全」な選択肢はほとんど見つからなかった。暗中模索の日々の中で、同じような悩みを抱える母親たちが全国にたくさんいることを知る。


「必要としている人がこんなにいるのに、どうして世の中にないんだろう」──その疑問と悔しさが、やがて覚悟へと変わっていった。


 
わが子が安全に生きていけるようなものをつくりたい。「世の中にないなら、私がつくるしかない」。その切実な決意が、事業を生む原点となった。

 

5人の子どもたち

 

食の不安が生む新たなニーズ

食物アレルギーは、もはや特別な人の問題ではない。外食や学校行事、職場の食堂で「安心して食べられない」、そんな経験をする家族は決して少数ではなく、私たちの当たり前の一口が健康のリスクになり得る現実がある。

例えば、農薬や残留物、添加物の蓄積といった「見えにくい化学的リスク」、加工・流通過程での交差汚染や混入、原材料の出自が分かりにくい表示の不備――


これらは誰にとっても他人ごとではない。外食・中食の普及に伴う温度管理や衛生の課題、輸入食品による品質差、忙しい家庭が「手早く安心」を得にくい流通の仕組み、さらに高齢化で増える嚥下困難者向けの食事ニーズなど、食を取り巻く課題は多層化している。これらは消費者の選択肢を狭め、社会全体の食の信頼を揺るがす問題でもある。


日々の食卓の選択で私たちの未来は確実に変わっていく。
今や3人に1人が何かしらのアレルギーを持つと言われる時代。誰もが「食と体の関係」に無関心ではいられない。

さらに重要なのは、こうした「安心ニーズ」が食物アレルギー当事者だけに留まらず派生需要を生んでいる点だ。働く親世代の簡便志向、介護食や病院食への応用、外食産業での表示・対応ニーズ、学校・企業の食堂での安全管理──。これらは別個の市場ではなく、同じ「安心を簡単に得たい」という要求の別側面である。つまり、keiki li’ili’iの食物アレルギー対応の取り組みは単独のニッチ市場ではなく、多様なライフステージと現場で受け入れられ、社会全体の食の基盤を底上げし、需要が連鎖的に広がる可能性を示している。


そこに山形・東北の強みが効いてくる。山や海の恵みが近く、生産者の顔が見える距離感――地域内での原料供給とトレーサビリティを確保しやすい点は、この種のニーズに応える上で大きな利点だ。keiki li’ili’iが地元契約農家を重視し、「誰が作ったか見える安心」を商品に直結させているのは、まさにこの地勢的優位を事業化した好例である。地方の小規模な信頼ネットワークが、食の不安を解消する実効的な解となり得ることを、この地域の実践は示している。

 

山形の広大な自然が母親たちの安心を支える

 

 フルタイム神話の崩壊

keiki li’ili’iで働くのは、全員がママだ。子育てと仕事を5050で両立し、互いに補い合う。事業は「小規模で、欲しい人のところに届けられればいい」という発想から始まり、製造は手作業を中心に行っている。現場では日々、子育てと仕事の調整を運用に組み込みながら生産を続けており、半分の力を持ち寄って組織を強くするモデルを築いている。こうした体制が同社の累計約2万食の販売実績につながっている。

ここから見えてくるのは、「女性・主婦だから」ではなく「女性・主婦だからこそ」成立する働き方だ。育児期の女性を単に「制約」として排除するのではなく、その制約を前提に組織設計をすることで、新たな採用資源が開ける可能性がある。keiki li’ili’iは地元のママ層を前提に事業を回しており、これは従来の「フルタイムでなければ戦力にならない」という採用観を覆す事例だ。


また、小規模で手作業を重視する事業形態は、原料や製造過程を消費者に説明しやすく、トレーサビリティや信頼を築きやすい。
さらに現場での擦り合わせが機能している点は、制度や仕組みを完全に整える前でも、地域の相互理解と現場の裁量によって品質を保ちつつ働き方の持続性を支える仕掛けになっている。

 

時代が keiki li’ili’i を欲している

かつて「オーガニック」や「無添加」は一部の”+α”の選択肢にすぎなかった。


しかし近年、持続可能性や地域との共生が経営課題に浮上し、食の安全は社会全体が求める当たり前になりつつある。この先頭を走るkeiki li’ili’iは、山形の契約農家とともに「誰もが口にできる離乳食」をつくり続けてきた。専業主婦としての切実な出発点が、共感を呼び事業へとつながり、今では社会の求める方向性、安全性、透明性、地域循環——と合致するプロダクトになっている。


浅野代表はこう語る。「食べることは生きること。これからたくましく未来を生きていく子どもたちに、安心しておいしいご飯を食べてもらえる環境を作るのが私の一生をかけての夢です。」この言葉は事業の出発点であり、日々の仕事の基準でもある。

keiki li’ili’iの物語は、「押し付け」やマーケティング主導ではなく、自然発生的な連携の結果だ。母親たちの切実な声を出発点に、地域の農家、デザイナー、大学の学食など、考えを共有するプレイヤーがゆっくりと手を取り合って形にしていった。それ自体が「共創」であり、需要を生み出した。その「共創」の過程で、地域資源は商品信頼の核となり、働き方の工夫は供給の安定を支え、消費者の安心が継続的な支持へとつながっている。専業主婦の原体験から始まった挑戦が、いま「次の時代のスタンダード」を先取りし、地方から始まる変化の可能性を教えてくれる。

 

左から、トークネット太田・トークネット 中畑・keiki li’ili’i浅野代表・トークネット菅原

 

 

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