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『CONNECT+』Vol.19:地域企業の突破口
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掲載日:2026年3月27日
地域企業の突破口
~共創からはじまるInnovation~
「共創」は企業にどんな変革をもたらすのでしょうか。
地域企業が成長し続けるためには、異なる企業や産業の枠を越えて「共創」し、新しい価値を創出することが求められます。
「地域企業の突破口」では、東北の企業や自治体の先端共創事例を特集していきます。
CASE19 真逆の一手が、会社を救う
突破口は、麵だった。
2024年、「EOY 2024 Japan 東北地区代表」に選出、「第9回ふくしま産業賞 銀賞」。「東北ニュービジネス大賞 奨励賞」に、「ふくしまベンチャーアワード特別賞」、同社商品の米粉麺『う米(まい)めん』はジャパンフードセレクションで「金賞」を獲得。受賞歴だけ見れば、勢いのある“新規事業企業”に見えるかもしれない。
ところが、その正体は福島県の電子部品メーカー、アルファ電子株式会社だ。祖業は受託製造。景気や顧客都合に左右されやすい構造の中で、東日本大震災後の環境変化も重なり、大きな岐路に立たされた彼らが選んだのは、得意領域の延長線ではなく、あえて「食」へ踏み出すという一手だった。
電子と食品。普通なら「真逆」と片づけられる距離感を、なぜ彼らは越えられたのか。
危機を突破口に変えた経営判断をたどる。

同社商品の米粉麺『う米(まい)めん』
ヒールの音から始まった
最初に工場へ入ったとき、樽川氏はスカートにヒールだった。
「何も分からず普通にスカート履いてヒール履いて…お客様のところに行った時に怒られましたね。『製造現場を甘く見るなよ』みたいな」―笑い話のようでいて、この一言は重い。
もともと家業を継ぐつもりはなかった。三姉妹の次女。姉夫婦や元夫が経営に関わった時期もあったが、うまくいかず、最後に残ったのが自分だった、と樽川氏は言う。
「この子で大丈夫?」という空気の中でのスタート。しかも経営未経験の“元主婦”。現場の作法も知らない。ここで多くの人は「自分には無理だ」と引いてしまうかもしれない。けれど、樽川氏は逆だった。社員から投げられた厳しくも正直な言葉で、覚悟が決まったという。
現場を知らないからこそ、最初に求められるのは、完璧な指示ではなく「学ぶ姿勢」と「責任の所在を曖昧にしない態度」なのかもしれない。
続けない覚悟が、社員を守る
会社を立て直す最初の出発点は、華やかな新規事業ではなかった。
むしろ真逆で、「やめる」決断だった。2015年入社後の数年間、樽川氏は会社を知ることに時間を使う。知れば知るほど、弱点が見える。受託製造への偏り。顧客の計画変動への依存。時代の流れに翻弄される体質。そして震災の風評被害で大口顧客を失い、2018年頃に経営は一段と厳しくなる。そこで銀行から突きつけられたのが、「このままでは融資はできない」。
資金繰りが詰まれば、理想論では会社は守れない。樽川氏は不採算事業の撤退や事業所の閉鎖など、組織改革に踏み込む。判断基準はドライだったという。「利益が出ているか出ていないか」――それしかない。
ただし、ドライに切るだけでは終わらせなかった。栃木の事業所を閉鎖した際、15名ほどの社員がいた。自主退職に向けて、次の就職先を一緒に探し、ハローワークにも同行した。
撤退は冷酷に見える。だが、撤退を先延ばしにして倒れれば、守れるはずの雇用も消える。
ここで学べるのは、「撤退=人を切る」ではなく、「撤退=会社を生かすための再配置」に変換できるかどうかだ。経営判断の厳しさと、人への向き合い方。その両方を同時に問われる局面は、どの企業にも訪れる。
本社工場
電子メーカーの看板で、米粉麺を売る
食品―電子メーカーにとって、普通は“最も遠い”領域に見える。
けれど樽川氏は、そこを「近い」と言う。
介護職の経験。子どものアレルギー。食べ物の大切さを体感してきた人生。
「電子も食品も分からないのは同じ。でも、食は身近だった」―樽川氏の直観は、キャリアの文脈とつながっている。さらに現実的な視点もある。
電子機器は10年単位でアップダウンがある。一方で「景気が悪いから食べない」人はいない。求められる“おいしいもの”さえつくれれば、事業は安定し、会社のベースになり得ると気づいた。とはいえ、ノウハウはゼロ。ここで樽川氏は「囲い込む」ではなく、「助けを求める」を選ぶ。社内では反対が出るため、まずは震災時の避難先でお世話になった人に相談し、米粉事業の縁をつないだという。外部記事でも、展示会で「まずい」と言われた経験を経て、オープンイノベーションへ舵を切り、各大学と産学連携で“おいしさ”を追求した流れが語られている。共創が、その突破口を加速させた。
“遠い”は、思い込みだ。
分解すれば「製造」も「品質」も「工程管理」も共通項がある。 視点を変えた瞬間に、参入障壁は「巨大な壁」から「越えるべき段差」になるのではないだろうか。

同社が手がける電子部品製造
10年後の”最強チーム”
最強のチームをつくるために樽川氏が重要視するのは、「聞くこと」と「ありがとう」の徹底だ。現場の声を聞けば、耳の痛い不満も届く。それでも、まず受け止める。考えてくれていること自体に感謝を伝え、必要なら頭を下げる。その姿勢により、少しずつチームがまとまっていった。アルファ電子は女性が7割。女性が働きやすいだけでなく、「自分に自信を持って、この仕事を楽しんでいる」と言える会社を目指す。
一方で、樽川氏の視線は社内に閉じない。むしろ今は、外に向けた未来像が輪郭を増している。
他社製品づくりの支援を通じて、自社ブランドを育てるだけでなく、“つくる力”そのものを地域や他社に開いていく。さらに、その先にあるのは社会への接続だ。樽川氏は、お米の消費拡大や自給率の向上、社会問題の解決、社会貢献も「会社として重要な役割」だと言う。儲かるからやる、だけではない。自分たちの製造技術を梃子にして、農業や食の課題に“当事者として”関わっていく。そのために、もっと多くの人とつながり、共に進める仲間を増やしたい―それが、10年後の構想だ。
社員が誇りを持てる会社であること。 同時に、技術を外に開き、地域と社会に役立つ存在であること。業種や事業が何であれ、次の成長をつくる鍵は「新しいことを始められるか」ではなく、自社の強みを別の価値に翻訳し、社内外の力を束ねて実装できるかにあるのかもしれない。
取材時の様子
(左:トークネット 太田 中央:アルファ電子株式会社 樽川代表 右:トークネット 中畑)
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