『CONNECT+』Vol.16:特別インタビュー
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掲載日:2025年10月17日
循環する“小さな地球”で食の未来を変える
小さな地球を作る万博企業
新潟県に生まれた常識外れの農業を知っているだろうか。
チョウザメが野菜を育て、さらには高級食材キャビアも採れる。しかも驚くべきことに、使われる水は6年間で一度も換えられていないという。
この“ありえない農業”を、国内で初めて実装したのが「株式会社プラントフォーム」だ。
地方発のベンチャーでありながら、すでに国内5か所で大規模プラントを運営。JR東日本スタートアップとの提携からは、さらなる拡大も期待される。
大手流通と契約して「魚が育てる」ブランド野菜を展開し、さらに2025年には大阪・関西万博への出展も決定した。まさに、いま最も注目を集める企業である。
米価高騰や肥料不足で「食の危機」に揺れる日本。その課題解決を掲げ、万博からも注目される最先端農業ITベンチャーは、どこへ向かうのか。
“循環する小さな地球”で次世代農業の新しいスタンダードを創り出す、プラントフォームの挑戦に迫る。
「アクアポニックス」の仕組み
水を換えない
「換えない水」—―これがプラントフォームの象徴だ。
驚くべきことに、2019年に最初のプラントを稼働させて以来、6年間一度も水を交換せずに野菜と魚を育て続けている。
それを実現するのが、究極の循環システム「アクアポニックス」だ。養殖魚の排泄物をバクテリアが分解し、肥料成分に変換。植物はそれを養分として吸収し、同時に水をろ過する。浄化された水が再び魚の水槽に戻ることで、水の交換を必要としない、まさに「自然界の縮図」が成立する。
しかし、この循環を維持するのは容易ではない。試行錯誤を繰り返してデータを積み上げ、魚と野菜の絶妙なバランスで循環を完成させた。
栽培された野菜は『FISH VEGGIES』としてイオン新潟県内12店舗で販売されるなど、評価も高い。
農薬を使用しない有機農法で環境負荷を大幅に低減しながら、味や品質も保証する“捨てない水の野菜”。そこには、未来の食卓を支える可能性が生まれている。

「お魚が育てたお野菜『FISH VEGGIES』」を販売
完璧なサイクルを知った日
プラントフォームの始まりは、「仕組みが面白い」という山本祐二代表のシンプルな好奇心だった。
アクアポニックス自体は1980年代にアメリカで提唱された技術であるが、日本国内で社会実装していた事例はゼロ。そこに目を付けて挑んだ試行錯誤は、他のIT農業とは一線を画す。先行事例の存在しない領域で、魚の種類・餌・排泄物・水質・野菜の相性といった膨大な組み合わせを自ら実証し、サイクルを成立させてきた。
「農業をしている感覚ではなく、新しい食料生産システムのプラットフォームをつくっている。
実はプラントフォームという社名にはその意思が込められている」という山本代表。プラントフォームは革新的な農業のパイオニアとして、従来の概念を静かに更新し始めている。
危機から描く設計図
日本の食糧危機は、すでに未来の話ではない。山本代表は危機感を覚えながらも、自社の取り組みが社会課題を解決する糸口になると考える。
高齢化が進む農家の平均年齢は約70歳。今後10年で生産者の半数が引退すると予測される。その上、化学肥料はほぼ輸入依存で国際市場での買い負けが現実化しており、きっかけひとつで国内の生産基盤は一気に崩壊しかねない。記憶に新しい米価高騰はその前兆にすぎない。
こうした構造的課題に対し、プラントフォームは化学肥料に依存しない「循環型農業」を社会実装することで解決策を示そうとしている。2025年にはJR東日本スタートアップとの資本業務提携を発表し、全国的な展開を加速。
彼らが提供するのは単なる商品ではなく、社会課題を解決する新たなシステムそのものである。

オープンイノベーションカンファレンス『Innovation Leaders Summit 2018』に登壇する山本代表
農家が変わる瞬間
農家を増やすのではなく、食料生産を担う会社を増やす。
山本代表の発想は、従来の農業支援とは全く異なる視点に立ち、農業の担い手不足を超えて「働き方そのものの転換」を促している。
SDGsや環境意識の高い若者は多いが、農業系の学校を卒業しても農家になる人はほとんどいない。
プラントフォームは工場型の仕組みとデータ活用により、農業経験が無くても参入できる環境をつくり出している。むしろ、ITやマーケティングの知識を持つ異業種人材が活躍する余地を広げ、農業は新たなキャリアの選択肢となり得る。
農業を「職業」から「仕組み」へ。別の角度から目的をとらえて新たな手段を社会に提案することで、農業のあり方そのものを再定義。そのビジョンは一企業のビジネスにとどまらず、社会を変える力へと広がっていくだろう。

プラントからアクアポニックスの可能性を広げる研究開発がおこなわれている
10年後の農業は激変する
「これからの10年は日本の食料安全保障を左右する正念場だと思う」と山本代表は語る。
持続可能な食料生産システムのため、国内のみならず海外も見据えたプラント展開の加速に意欲を示す。アクアポニックスはすでに、化学肥料に依存せず有機野菜を安定的に供給できる仕組みを実現している。さらに、チョウザメ養殖によるキャビアとブランド有機野菜を組み合わせた高付加価値ビジネスは、国内外でのさらなる展開の可能性を秘めている。
「不安を煽るのではなく、解決策を示す」。その姿勢は、社会に新たな農業のスタンダードを築き上げる力になるだろう。循環型の農業システムを社会に根づかせることができれば、食糧危機は恐怖ではなく、新しい未来を拓くきっかけになる。
新潟から始まった小さな循環は、やがて日本の食糧生産を救う大きな循環へと進化するに違いない。
左から、トークネット太田・トークネット若生・プラントフォーム山本代表・トークネット菅原
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