『CONNECT+』Vol.18:特別インタビュー
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掲載日:2026年2月6日
地方は今、静かに、しかし確実に、かつてとは違うリズムで動き始めている。
人口が減っても、人が集まる地点がある。都市より、地方が優位に立つ条件がある。小さな地域でも、外に開いた瞬間に伸びる余地が生まれる。
しかし、誰もが知っているはずのこの現象を、なぜか見誤っている。数字は、現場とは違う角度から東北の現在地を示してくれる。そしてその読み方を知れば、地方の立ち位置は想像とはまったく異なる姿を見せ始める。そして示されるのは、新しい東北と新潟の未来だ。
自らを“数字の翻訳者”と語る七十七リサーチ&コンサルティング株式会社首席エコノミストの田口庸友氏は、データの裏側から地域の構造を読み解き、これからの東北を見るための視点を示してくれた。
関係人口とDID
シェアする人口
東北の人口は減り続けている。これは疑いようのない事実である。しかも、いまの減少は若者が出ていくからではない。出生数そのものが急激に細り、もはや転出超過をどれだけ抑えても逆転できない“自然減”のフェーズに入った。「人口減少を前提に、どう生きるか」地域はこの問いに向き合わざるを得なくなった。この時、数字だけ見れば厳しい。だが、不思議なことに地域の外側から流れ込む“関わり”は、むしろ増えている。この逆説の正体が「関係人口」である。
観光客以上・定住者未満。ふるさと納税で関わり、震災ボランティアで関わり、何年経ってもイベントのときには戻ってくる人たち。彼らは「住む/住まない」のどちらにも分類されない。だが地域に落とす価値は確実に存在する。昔のように“人口を奪い合う”時代ではない。いま起きているのは、ひとりの都市生活者が複数地域に関わることで、人口が“分け合われる”時代への転換である。この構造が当たり前になった時代に、「住む/住まない」だけで地域人口を測る物差しは、すでに役割を終えている。
東北は、この“新しい人口の捉え方”で見たときに、姿が大きく変わる。東北は、実は関係人口の多さで全国上位にある。 理由は明快だ。震災が生んだ関わりが十年以上続き、6県すべてが新幹線で首都圏と直結するという稀有な地理構造だ。約3,600万人がいる首都圏からの距離が近く、行き来が容易であれば、“絆”は途切れにくい。
「取られているように見えるが、実は取れてもいる」。田口氏の言葉の意味はここにある。人口が減っているのに、関わりの総量はむしろ膨らんでいる。外からの接点が多いほど、地域にはビジネスの種が落ちる。地方が目を向けるべき対象が、もはや“奪い合う人口”ではない理由はここにある。人口は減っても、関わる人は増える。地域に落ちる“接点の総量”はむしろ拡大している。これが、東北がまだ気づききれていない強みのひとつである。

減っているのに混んでいる
そして、人口減少下で見逃されがちな動きがある。DID(人口集中地区)だ。駅前や住宅地など、一定の密度で人が暮らすエリアである。市全体の人口とDID人口を分けて見ると、驚くべき現象が浮かび上がる。市全体の人口が減っているのに、DIDだけ増えている都市が現れている。「人口は均一に減らない。人は、人がいるところに集まる」。田口氏が語るこの原理こそ、人口減少期に生まれる“多層的な集中”である。日本全体では東京へ、東北では宮城へ、宮城では仙台へ。階層ごとに“核”があり、そこに人が集まる。縮小ではなく“選択”が進んでいるのだ。
だからこそ問うべきなのは「何人減ったか」ではない。「どこに人が集まり、そこでどんな商圏が成立するのか」だ。床屋は500人、銀行は5~6万人、スターバックスは17万人——業種によって必要な人口密度はまったく違う。つまり、人口減少下でも成り立つビジネスは数多く存在する。むしろ“適正規模で戦える企業”にとっては追い風さえ吹く。関係人口という“広がるつながり”と、DIDという“集まる密度”。この二つを読み違えると、地方の勝ち筋は見えてこない。読めば、人口減少が“縮小”ではなく“再配置”であることがわかる。
人口減少は終わりではない。むしろ、構造が整い始めた地域から次のルートが見え始めている。

テレワークは脅威?
東京が失っているもの
“強みは変わる。気づいた地域だけが追い風に変えられる”。数字を追っていくと、都市と地方の強みの位置が静かにずれつつあることがわかる。東京は稼ぐ力こそ強いが、「経済的豊かさ」では全国最下位に沈む。理由は単純で、通勤という巨大な機会費用だ。数時間の満員電車で奪われる時間は、本来なら別の価値に変わっていたかもしれない。「お金は借りられるが、時間は借りられない」。田口氏の言葉は、都市の構造そのものを射抜いている。
ところが、テレワークの浸透はこの“弱点”を一気に帳消しにする。 通勤が不要になれば、東京の“低い豊かさ”は跳ね上がる。地方にとっては追い風どころか、相対的な優位性を奪いかねない“逆風”だ。コロナ禍で語られた「地方の時代」の波が、実際には神奈川・千葉といった首都圏周縁にとどまったのも、この構造が背景にある。

仕事はどこから消えるのか
しかし、本質はその先にある。テレワークは、働く場所そのものを“選べる”時代 を生んだ。東京の企業に勤めながら東北で暮らすケースは、すでに身近に存在する。都市か地方かという二項対立は薄れ、2者間の境界は以前より薄くなっている。「どこに所属するか」ではなく「どこに住むか」を自分で決められる時代が始まった。
さらに追い打ちをかけるのがAIだ。 AIに代替されやすい職種――事務職などのホワイトカラーは、東京に圧倒的に集中している。すでに都市部では求人を上回る求職が生まれ、“余り始めている”構造が見える。一方で地方は、建設・製造といったエッセンシャルワークが慢性的に枯渇している。東京で余り、地方では足りない。この“ねじれ”が拡大している。だが、ここにこそ地方の伸びしろがある。
建設や製造はかつて「力仕事」の印象が強かったが、ロボティクスやデジタル化が進めば、性別や体力に依存しない職種へと変わっていく。女性や若い世代が入りやすいフィールドに変わるということだ。「代替されるのではなく、新しい入り口が開く」田口氏はそう表現する。海外では熟練ブルーカラーが高給を得る事例も多い。労働人口が減れば希少性が上がり、価値が高まるのは市場原理である。つまり、「地方がAIに飲み込まれる」のではない。 むしろ、AI・DXによって伸びやすい産業構造を、地方はすでに持っている。 都市で余ったホワイトカラーが地方に向かい、地方で不足するブルーカラーやオレンジカラー(介護・サービス職)の価値が高まる。両者が交わる地点、そこに地方の次の成長線が走っている。


外貨を稼ぐ
開くと地域は強くなる
人口が減り続ける地域であっても、成長の軸を持てる。 その代表的な例が、北海道・猿払村だ。人口わずか2,500人の村だが、1人当たりの課税所得は全国トップクラス。港区・千代田区に並ぶ水準だ。その源泉はただ一つ、ホタテの輸出。しかし本質は“特別な資源”ではない。地域にあるものを外とつなげたとき、初めて価値が形になる。それだけの話だが、その一歩を踏み出した地域は強い。 域内需要に依存しない“基盤産業”をどれだけ持てるか。 人口が減る以上、飲食・小売・サービスといった「地域内でのみを商圏とする産業」だけでは、地域経済は支えきれない。外から収入を持ち込む仕組みを持つ地域こそ、人口減少の局面でもしなやかに生き残る。
東北にも、その兆しはすでにある。宮城県白石市の「蔵王キツネ村」は、地元では見慣れた風景の一部だった。 しかし海外インフルエンサーの目に触れた瞬間、その日常は世界から見れば唯一無二の“非日常”として立ち上がり、プチオーバーツーリズムが起こるほどの宝へと変わった。日常の中にある価値は、地域の視点が決めるのではなく、外の視点が決める。
この小さなズレが、外貨を生む。日本酒も同じ構造だ。地域の中で循環する存在だったものが、海外で評価されることで“輸出品”へと変わる。そして外で発見された価値が、今度はインバウンドという形で地域に戻ってくる。“外に出した価値が外から戻ってくる”。この循環が、外貨を稼ぐ地域構造である。

見過ごしてきた価値を探せ
いまの外貨獲得の特徴は、「観光地」である必要がないことだ。SNSの普及で、価値は“地元が気づいていない場所”から立ち上がる。地域の麺文化、ローカルフード、漫画やアニメの舞台になった駅や神社といった“日常の断片”も、外から見れば立派な資源になる。田口氏が繰り返し述べていたのは、「東北には、日常のなかに未発掘の資源が多い」ということだ。
外貨を稼ぐとは、大規模な投資でも特別な観光地づくりでもない。まだ名前のついていない価値を丁寧に拾い上げ、外と接続する作業である。秋田のいぶりがっこが、クリームチーズと出会って輪郭を変えたように、 組み合わせひとつで地域資源は別物になる。
人口が減る社会では、奪い合うより、束ねた方が強い。点在する価値を重ねていけば、地域の“面”は自然と広がり、外貨を取り込む力になる。
東北にはまだ、言語化されていない価値が多い。成長を分けるのは、その価値を“最初に見抜く眼”である。

(写真左から)トークネット菅原・七十七リサーチ&コンサルティング株式会社 田口氏・トークネット太田
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