『CONNECT+』創刊号: Special対談
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掲載日:2024年3月25日
「共創という新たなビジネス形態」
~共創からイノベーションが始まる~
共創(Co-creation)は、社会に革新的な価値を創造する新たな試みである。日本経済新聞では毎月のように共創が掲載され、これからのビジネスや持続可能な社会を築く上で重要なキーワードの1つと言えるだろう。このアプローチでは、企業とステークホルダーとの関係性は業者や下請けとは異なり、金銭的なやり取り以上に信頼と協力が不可欠だ。 「CONNECT+」の創刊にあたり、共創に取り組む3者が対談。ステークホルダーがそれぞれに課題やアイデアなどを持ち寄り、地域課題の解決という共通のゴールを目指す現在の取り組みや成功事例、そして10年後に実現したい未来について語ってくれた。 |
対談の参加者
株式会社BSNアイネット 執行役員/イノベーション推進室長 坂田 源彦 氏 |
「葛藤を超えた先に得られる成功」
今回の対談の会場となったのは、新潟県最大級のイノベーション施設「NINNO(ニーノ)」。新潟駅南口に直結する好立地で、地域企業やスタートアップ・ベンチャー企業と、行政、教育・研究機関が集い、イノベーションを共創する場となっている。NINNOでは、医療・伝統産業・地域活性化など様々な分野の地域課題を集約している。そこにITや先端技術などリソースのある企業・機関が手を挙げ、課題解決はもちろんのこと新たなビジネスチャンスにも繋げようというのだ。
実際に取り組んだ事例の1つが、消防・救急の緊急通報「119番」が繋がりにくいという地域課題。そこにIT企業が手を挙げ、アプリの開発に取り組んだ。急病の際、119番に電話をかける前に、アプリを使って症状を選択してもらうことで緊急度を判定し、救急車を呼ぶ必要があるのかを示すという提案だった。119番に繋がりにくいという表面的な問題の解決だけでなく、救急医療の負担軽減という本質的な課題の解決に繋げたのだ。 このように自社では解決できない課題も、外部リソースによるサポートを得ることで、解決に繋がっていく。令和2年11月のオープンから現在までに36社の企業が参画している、NINNOだからこそできるエコシステムである。ただし、そこには葛藤も伴う。自社の課題や解決のアイデアといった情報をオープンにする必要があるからだ。他社より抜きん出ようという「競争」ではなく、葛藤を超えた「共創」を選択することで初めて、共創は成功する。そのためにも、仕組みと信頼関係は欠かせない。重要なのは、オープン以来築いてきたNINNOというコミュニティーの存在なのだ。 「先見性を持ったアイデアを出すという行為だけでも、多くを出し過ぎるとアイデアを盗られてしまうリスクがあります。しかし、リスクを心配して立ち止まってしまうくらいなら、仲間を集めて実現しよう、そんな企業・機関が集まるコミュニティーです」と坂田さんは笑顔で語った。 |
「多様な人材が集う定禅寺バレーへ」
株式会社雑談会議に参画する稲垣さんなど地域企業3社は、環境・不動産・人材と異なる分野で事業を展開してきたが、共通の問題意識があった。それは、東京での仕事が増えていく中でこのままで良いのかという疑問と、急激な東北地方の人口減少への危機感だった。そこで株式会社雑談会議を設立し、仙台の顔とも言える定禅寺通に面したビルに「IDOBA(イドバ)」を構えた。 IDOBAのコンセプトは、目先の利益よりも10年後の企業をより良くすることを通じて地域をより発展させることを目指す。定禅寺通が事業と文化の集積地となる事で、持続可能な経済圏となることをパーパスとして作られた。自社の課題を持ち寄り、語り合いながらともに学び、課題解決に向けたプロジェクトの進行を目指している。特に個性的なのは、フリーランスのプラットフォームを内包している点。SNSの運用や採用支援など、フリーランスが得意とする分野は幅広い。IDOBAでは、地域にいる約600名のフリーランスの情報をストックし、各企業の課題感に合ったスキルや知見のある人材をマッチングすることが可能だ。採用難の時代に、社内にはない人材やリソースがプロジェクトに加わることで、イノベーションを生みだしていく。 2022年12月のオープンから1年と走り出したばかりではあるが、少しずつ認知度を広げてきた。企業の変革と人材育成を通じて、定禅寺通から地域の持続可能な発展を共創する拠点なのだ。「最終目標は定禅寺通をシリコンバレーのような地域にすることです。IT企業を集積したいという意味ではなく、IDOBAが盛り上がることで周辺に地域企業が集まってきて、そこに勤める人たちが集い、人が育つようになるのが理想です」と夢を語った。 |
「繋がることで地域が豊かになる」
2021年11月に開始した「よりそう東北コネクト」は、東北電力グループのデジタルプラットフォーム。設立の背景には、全国的に地域が縮小し、特に東北地方は東日本大震災の影響もあり過疎化が進む中で、地域企業を盛り上げていくために何かしなくてはという問題意識があった。そこで、繋がりの力により持続可能な成長・社会と、助け合いに満ちた豊かな地域を築くという壮大なミッションを掲げ、実現に向けて取り組みを進めている。
よりそう東北コネクトのWEBサイト上には、会員企業が抱える困りごとをコンテンツとして掲載。コンテンツは多岐にわたり、中には「健康グッズの原料として活用するために、もみ殻を集めたい」という内容まであった。実際にA社では、自社のシンボルのような大きな桜の木を、社屋の新設のために伐採しなければならないが、ただ廃棄するのではなく生かす方法がないかとコンテンツに示した。また別のB社では、木材加工技術を生かして販路拡大やSDGsの推進に繋げたいとコンテンツを提示していた。2社を取り次いだ結果、シンボルツリーはB社によって加工され、A社の記念品として生まれ変わっている。 地道な営業活動により、現在では約800社がプラットフォームに登録。会員からは「自社の課題を相談できそうな企業があるか確認できる」「東北電力グループが運営しているサイトのため信頼できる」と歓迎する声が届いている。地域内の繋がりには限界もあるため、地域外からも知見や人・ノウハウを持ち込む。プラットフォームに知見を蓄積していくことで、地域の発展に寄与していく考えだ。 |
「共創から広がる10年後の未来」
NINNOでは、地域企業に加えて首都圏で起業した新潟出身者や、新潟出身ではないが新潟で起業した人などにも関わってもらっている。様々な視点や知見のある人たちの協力を得ることで、新潟のポテンシャルを高め、人が育つ土壌を育む狙いがある。坂田さん自身、横浜出身で移住してきた1人だ。「新潟に移住して良かったと思ってもらえればうれしい」。また、NINNOにはIT企業が多く、起業しても社会に実装するための試験を行うフィールドの不足が課題となっている。そこで、新潟駅前の再開発に合わせ、規制緩和により試験のできるフィールドを増やしたいと考えている。10年後には規制を緩める動きが新潟モデルとして、全国に展開されているのが理想だ。 稲垣さんは「創業当初から10年は続けていこうという共通認識があった」と話す。IDOBAが立地する定禅寺通沿いでは、令和10年度に供用開始を目指す仙台市役所新庁舎をはじめ、さまざまな整備計画が進む。しかし、立派な新庁舎が完成したとき、そのエリアに集う人がいなければ意味がない。まちづくりと人づくりを一体のものとして考え、10年先のより活気ある定禅寺通を見据えた取り組みが必要なのだ。この1年でIDOBAからは5社の法人化が実現している。企業の集積を通じて、人が集まる流れを加速させたい考えだ。 よりそう東北コネクトは、運営する株式会社トークネットが通信サービスを提供する約2000社の顧客基盤と独自インフラの光ネットワーク網が何よりも強みだ。坂田さんと稲垣さんは、「スケールメリットを存分に生かして、私たちにはできない規模や視点からの地域活性化を実現してくれるのではないか」と期待を寄せた。 共創の舞台では、従来のビジネスで見られる遠慮は必要ない。むしろ、異なる視点や意見を開かれた心でぶつけ合い、より良いアイデアや解決策を共に築き上げていくことが重要である。この積極的な対話と協力の機運こそが、イノベーションの原動力となるのだ。共創は、単なる事業やプロジェクトにとどまらず、社会全体の変革を促進する手段としても注目されている。ステークホルダーが自身のビジョンを共有し、それを具現化するために協力することで、より良い未来を築いていくことが可能だ。共創がもたらす前向きな変化は、単なるビジネスの枠を超え、社会全体に良い影響をもたらしていくだろう。 |
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