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『CONNECT+』Vol.13:地域企業の突破口
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掲載日:2025年5月30日

地域企業の突破口
~共創からはじまるInnovation~
「共創」は企業にどんな変革をもたらすのでしょうか。
地域企業が成長し続けるためには、異なる企業や産業の枠を越えて「共創」し、新しい価値を創出することが求められます。
「地域企業の突破口」では、東北の企業や自治体の先端共創事例を特集していきます。
CASE13 伝統はオープンイノベーションで進化する
伝統をハックしてビジネスを加速
藍染めの“藍”が宇宙、化粧品、飲料といった分野へと飛び出しているのをご存じだろうか。江戸時代から続く伝統技術を土台として藍の機能性に着目し、現代のニーズに応える商品開発を次々に展開しているのが、青森市に本社を構える「あおもり藍産業株式会社」だ。
宇宙空間での船内服や、スキンケア製品、食品など、応用は多岐にわたる。単なる染料にとどまらず、「藍=課題解決の天然素材」と捉え直したことが、次の扉を開いた。
さらには、弘前大学医学部と共同で藍の成分が持つ抗菌・抗ウイルス性能の研究を進めており、医療分野や福祉製品での応用にもつながっている。代表の杉山大幹さんは、「藍の抗菌性や防臭性など、先人が経験的に知っていた効能を科学的に証明し、社会課題に役立つ素材へと再定義したい」と語る。
ではどのようにして、藍染という伝統コンテンツをここまでの商品へと作り上げることができたのか。
美しい発色が特徴的な藍染め
壊すからこそ生まれる
伝統を守るだけでは、新しい価値は生まれない。従来、染料を作るためには約3か月の発酵工程を要していたが、同社は独自のパウダー化技術の開発により、わずか2日に短縮した。伝統を壊すということはここまでインパクトがあることなのだ。
3か月を2日?本当にできるのかと誰もが想像する。当初は染色濃度が薄まるという課題があったが、これを逆手に取って、濃淡を自在に調整できる「染め分け」技術に発想を転換しブランディングが始まった。
当然、反対や不信感でアゲインストの風が吹いていたことは間違いない。それでも、デザインの幅を広げ、製品の多様化へつなげる施策を打ち続けた。また、「食べられる藍」というコンセプトでの農薬不使用栽培により、藍茶やのど飴、スキンケア製品などにも拡大し、染色以外の新たな市場を開拓し続けているのだ。
「伝統に固執せず、変えていいところは変える。それが現代に受け入れられるカギ」と杉山さんは話す。伝統と革新が共存する技術の背景には「あえて壊す」勇気と、「残すべきものを見極める」姿勢がある。
染色工程をデータ管理することで8 色に染め分けを可能に
共創がつむいだ会社の歴史
同社の歩みは、まさに自社だけでは成し遂げられない「共創」の連続だった。実は、藍の栽培が一旦はゼロとなってしまった青森県。地域のリタイア世代や高校生の力を借りて栽培をスタート。
その後も大学、地元企業、行政との連携を通じて研究や商品開発、販路拡大などを進めてきた。社員6人という小規模ながら、地域の多様な人材とのネットワークを最大限に活用し、成長を遂げてきたのだ。
企業規模の拡大という路線ではなく、パートナー構築がむしろ商品開発と事業継続に大きく寄与している。「自分たちだけで完結できることは何ひとつない。だからこそ、信頼できる人たちと一緒に事業を育てていくことが大切」と杉山さんは語る。共創によって築いたネットワークが、最大の資産でもある。商品づくりの背景には、地域ぐるみで織りなすストーリーがあるのだ。
最近では、金融機関との連携やリブランディングを通じて、企業としての存在感も強化されている。外部人材を役員に迎えるなど、柔軟な組織運営にも積極的だ。地域の中にいながらも外にひらかれた経営が、共創を呼び込んでいる。
地元高校生による藍の刈取作業
オープンイノベーション
2024年、青森県が主催する「AOMORI OPEN INNOVATION PROGRAM 2024 Blue Ocean」に採択され、大阪のスタートアップ企業と新たな共創がまた始まった。「裏表のないユニバーサルウェア」という開発テーマのもと、子どもや高齢者でも着脱しやすく、藍の抗菌・消臭機能を活かした新製品づくりが進行している。
「自社の技術をあえてオープンにすることで、新たな出会いが生まれる。それが次のイノベーションにつながる」と杉山さんは語る。この考えが多くの企業との圧倒的な違いだと感じた。
新たな市場に挑むには、外との接点が必要不可欠との発想だ。共創に前向きな同社の姿勢が、スタートアップや異業種からの関心を引き寄せている。このスタンスが事業共創における最大の成功要因なのかもしれない。
こうした取り組みは単なる販路拡大や商品開発にとどまらず、地域資源を活かした課題解決型ビジネスの好例として、今後の地方創生のモデルケースに発展する可能性を秘めている。
安心・安全かつ効果の高い天然成分の藍エキス
藍の火を消さない
あおもり藍産業の挑戦は、伝統を「守る」のではなく時代のニーズを捉えつつ「活かす」という視点で一貫している。藍の栽培地を拡大し、製品ラインを強化することで、多くの人が関わる循環型のビジネスモデルの構築を目指しているのだ。
「10年後には、藍が青森の地域ブランドとして確立し、しっかりと雇用を生み出す存在になっていてほしい」。杉山さんの描く未来は、単に会社の成長ではなく、地域の豊かさと持続可能性を見据えている。
地方の創生は伝統文化を壊すことから始まるのではないか、と感じさせられる。そのためには技術の開示から始まるオープンイノベーションであり、「自分たちだけではできないからこそ、人とつながる」共創マインドが不可欠だ。
その言葉の通り、地域企業にとっての突破口は、遠くにある技術や資本ではなく、目の前の“資源”と“関係性”のなかにあるのだろう。
左からトークネット赤城・杉山社長・トークネット太田
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