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『CONNECT+』Vol.21:地域企業の突破口
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掲載日:2026年7月3日
地域企業の突破口
~共創からはじまるInnovation~
「共創」は企業にどんな変革をもたらすのでしょうか。
地域企業が成長し続けるためには、異なる企業や産業の枠を越えて「共創」し、新しい価値を創出することが求められます。
「地域企業の突破口」では、東北の企業や自治体の先端共創事例を特集していきます。
CASE20 捨てない仕組みが、ブランドをつくる
世界を惹きつける、盛岡の灯
Onitsuka Tiger、KUON、Snow Peak ──。
世界のファッションブランドが今、ある東北の伝統技法に注目している。グッドデザイン賞受賞、海外展開、即完売したコラボスニーカー。その中心にいるのは大手メーカーでも有名デザイナーでもない。岩手県盛岡市にある、一つの就労継続支援B型事業所 だ。地方の小さな工房で、端材や余剰素材から生み出される伝統技法「裂き織」が、今、世界ブランドと肩を並べる商品を生み出している。なぜ、地方の小さな工房が世界から選ばれるのか。なぜ、捨てられるはずだった素材が新たな価値へ変わるのか。そしてなぜ、“福祉”という枠を超えて、多くの企業やブランドが惹きつけられているのか。幸呼来Japanが挑む価値転換の裏側に迫る。

▲限定販売のOnitsuka Tigerとのコラボスニーカー
「かわいそう」の値札
古くなった布を細く裂き、一本ずつ横糸として織り込んでいく──。盛岡市にある就労継続支援B型事業所「さっこら」(幸呼来Japan運営) では、企業の余剰素材や祭りで使われた浴衣などを、障がいのある利用者たちが裂き織りとして再生している。工房には毎日、カタン、カタンと織り機の音が静かに響く。そんな現場で幸呼来Japanの代表取締役をつとめる石頭氏が向き合ってきたのは、「福祉の商品は安くあるべき」という世間の空気だった。「障がいのある人が作りました」と伝えた瞬間、「なんでこんなに高いの?」と言われる。モノそのものではなく、“誰が作ったか”で値段が決まってしまう現実があったという。それでも幸呼来Japanは、安売りへは向かわなかった。ホームページ、写真、ブランド設計──。磨き続けたのは、“どう見せるか”だった。
「『障がいのある人たちが作ったから見てください』じゃなくて、『これ素敵だよね』から入ってほしかったんです」。「福祉だから」という見られ方を壊し、“価値で選ばれるブランド”へ変えていく。その挑戦は、地方の小さな福祉事業所を、世界から指名されるブランドへと押し上げた。 価格は、性能だけで決まるわけではない。どんな世界観で見せるのか。誰に、どう届けるのか。幸呼来Japanの挑戦は、“価値の伝わり方”そのものを書き換えようとしている。

▲一段ずつ丁寧に裂き布を織り込んでいく様子
廃材が売れる理由になる
幸呼来Japanの工房には、全国から企業の余剰素材が集まってくる。スニーカー工場で余った人工スエード。アパレルブランドの残布。祭りで使われた浴衣。本来なら廃棄されるはずだった素材たちが、裂き織りによって新たな商品へ生まれ変わっていく。Onitsuka Tiger(オニツカタイガー)とのコラボでは、スニーカー製造時に余る素材を裂き織りへ活用。Snow Peak(スノーピーク)とは、岩手の法被シリーズ「LOCAL WEAR IWATE」の残布を使ったベスト制作を行った。だが、この取り組みがおもしろいのは、“社会貢献”だけで成立していないことだ。企業側から見れば、廃材削減だけではなく、サステナブルなブランド発信、限定商品の付加価値向上、ストーリー性のある商品開発、PR効果など、実利のある取り組みとして機能している。実際、近年は「活用しきれない素材を何かに使えないか」と検索し、幸呼来Japanへ問い合わせる企業が増えているという。「SDGs」という言葉だけでは、人は動かない。だが、“捨てるはずだったものが欲しくなる商品へ変わる”体験には、人を惹きつける力がある。理念だけでは、共創は続かない。「社会性」と「事業性」が両立したとき、それは持続可能なビジネスへ変わっていく。幸呼来Japanの取り組みは、その事実を示している。

▲盛岡の伝統芸能さんさ踊りの古浴衣が原料のコースタ―
自然と力が輝く組織
「さっこら」 では、利用者の出席率が98%に達するという。障がいの特性も、得意不得意も、一人ひとり違う。一般企業以上に、“同じやり方”が通用しない現場と言っていい。それでも工房には、不思議な安定感がある。織る人。布を裂く人。色を組み合わせる人。得意な工程は、それぞれ違う。口頭だけでは伝わりにくい人には、紙や絵を使って伝える。支援員自身もデザインや企画へ関わりながら、一緒に現場をつくっていく。そこにあるのは、「みんなを同じように管理する」という発想ではない。むしろ、一人ひとりが自然に役割へ入っていけるよう、“環境そのもの”を調整しているように見える。「楽しいって言ってくれるんです」石頭さんはそう笑う。自分たちが作った裂き織りが、世界のブランドで使われる。メディアに取り上げられる。家族が喜ぶ。“作業”だったものが、“社会とつながる仕事”へ変わっていく。今、多くの企業が、多様な働き方や価値観への対応に苦戦している。画一的なマネジメントでは、人も組織も動かなくなり始めている。そう考えると、幸呼来Japanの現場で起きているのは、単なる「福祉の話」ではない。必要なのは、人を組織へ合わせることではなく、人が自然と力を発揮できる環境をどう設計するか──。この工房は、そのヒントを先回りして実践しているようにも見える。

▲小さな工房で16名のスタッフと共に、廃材に新たな命を吹き込む
盛岡発、裂き織り経済圏
石頭代表が見据えているのは、工房の未来だけでなく、裂き織りを軸に 、人が集まり、文化が混ざり、地域に新しい経済圏を生み出すことだ。
2024年には、新拠点「Saccora Share Global」も始動。ワークショップ、D&I研修、ツーリズム、交流事業など、裂き織りは今、“作品”から“体験”へと広がり始めている。注目すべきは、裂き織りを通して、福祉・観光・教育・ファッション・地域文化――、本来別々に存在していたものが、少しずつつながり始めていることだ。企業の端材が工房へ届く。利用者たちが裂き織りへ変える。ブランドとコラボする。そこへ人が集まり、地域を訪れ、また新しい仕事や関係性が生まれていく。全国の福祉施設とネットワークを組み、量産体制を広げる構想も描いている。つまり幸呼来Japanが作っているのは、商品だけではない。地域の中に、「価値が循環する構造」そのものをつくろうとしている。「障がいのある子たちが、自信を持って『これ、自分たちが作ったんだよ』と言えるようにしたい」そう語る石頭さんの言葉には、“福祉”という枠を超えた産業づくりへの視線がにじむ。地方創生というと、新しい施設や派手なプロジェクトが語られがちだ。だが本当に必要なのは、地域に眠っている文化や技術、人の力を、どう編集し直し、“循環”させていくかではないだろうか。裂き織りを起点にした新しい価値の循環が今、盛岡の小さな工房から世界へ広がっている。

▲左から、トークネット佐野・幸呼来Japan石頭代表・トークネット太田
インタビューの全編動画はYouTubeで公開中!
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