『CONNECT+』Vol.8:特別インタビュー
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- 東北・新潟の地域活動や社会貢献活動に参加したい
掲載日:2024年9月20日

宇宙スタートアップも選んだ“開拓”の地
人口ゼロを経て挑む持続可能な町づくり
日本では類を見ない“フロンティア”の地で
2024年8月25日、福島県南相馬市内にて民間の宇宙スタートアップ『AstroX株式会社』が超小型ハイブリッドロケット『kogitsune』の発射実験に成功した。
いま、小高に多くの起業家が集まっていることをご存知だろうか。先進的なスタートアップとともに、暮らしを豊かにするローカルビジネスに取り組む起業家が拠点を構えている。
AstroX社は、同市小高区内にある宿泊可能なコワーキングスペース『小高パイオニアヴィレッジ』に入居する。“居・職・住の境界があいまいな空間が化学反応を起こす”をコンセプトに掲げる小高パイオニアヴィレッジを運営するのは、2014年に設立された『小高ワーカーズベース』だ。
“地域の100の課題から100のビジネスを創出する”とミッションを掲げ、AstroX社をはじめ、ジャンルの垣根を超えた自由な酒づくりを行う『株式会社haccoba』などの多数の企業を輩出している。自社で運営している事業を合わせると、20件を越えるビジネスがこの場所から生まれている。
小高のまちの起業家たち
2024年7月31日現在、相馬市小高区の居住人口は3,846人。なぜ、小高に起業者が増えているのか。日本国内で“類を見ないチャレンジ”に挑む小高ワーカーズベースの取り組みを紹介したい。
“無人”の町に希望を感じて
小高ワーカーズベースを率いるのは、南相馬市小高区出身の和田智行(わだ・ともゆき)氏。大学時代には上京し、ITエンジニアとしてキャリアを積む。
インタビューの様子。中央に和田智行氏
その後2005年に、ITベンチャーの仲間とともに東京で起業すると同時にUターン。いち早くリモートワークを実践し、インターネットでのジュエリー販売やゲーム制作のビジネスを行っていた。
そんな和田氏に転機が訪れる。2011年に発生した東日本大震災の影響により、避難生活を余儀なくされたのだ。小高区は、避難指示により居住人口がゼロに。しかし、和田氏と家族は故郷に戻ることを決意していた。
思いを胸に小高に戻った和田氏。いくつもの課題を抱えた町に絶望ではなく“希望”を感じていた。
課題はすべてビジネスになり得る。この地に生まれ育ち、起業経験を持つ和田氏は課題解決を目指すビジネスを生み出し続け、「ここで暮らしたい」と思える町、そして社会を創ろうと決意し小高ワーカーズベースを立ち上げた。
小高パイオニアヴィレッジの外観
一時期は人口ゼロだった小高。まさに、現代社会に突如生み出された“フロンティア”だ。
すでに成熟した社会を変えることは難しくとも、ゼロからスタートできる場所ならば、フラットな目線で思い描く社会を創り出せる。そんな壮大なチャレンジができる場所はここしかない。そう気づいたときに、和田氏は「ワクワクした」と話す。
一つひとつは小規模でも、地域課題を解決する多種多様なビジネスが生まれれば、持続可能な町を創れる。
大手企業や大型商業施設の誘致は、地域活性化の特効薬として大きなインパクトをもたらすかもしれない。
しかし、遠方に本拠を構える企業に地域の行く末を委ねることは得策と言えるのだろうか。想定通りにビジネスが軌道に乗らなかった場合はもとより、災害など予期せぬ出来事により撤退するリスクも考えられる。
居住人口が5,000人を切るこの地に、大手企業が今すぐ参入するとは考えづらい。競合を意識せずに起業できる点は、ビジネスでの経験値が少ない起業家にとって挑戦しやすい環境といえるだろう。顧客やユーザーのフィードバックを通じて、ビジネスを着実に育む機会に恵まれるはずだ。
「地域の課題解決を行政だけに任せず、民間が主体的に取り組むことで地域に根付く産業が育ち、持続可能な町づくりが叶う。」
和田氏は、そう確信していた。
何もないならば、自分たちで創る
実際に、その萌芽は育ってきている。小高の地で生きようとするパイオニア(開拓者)が集い、自由に語り、発想できる場には、次代を担う若い世代も集い始めた。
小高ワーカーズベースに集う学生インターンには、毎年のように高校生の姿がある。多くの起業家たちと過ごすコミュニティでの日々は、若い世代にとって刺激的だ。価値観がアップデートされ、進学や就職と並び、“起業”という新たな選択肢が生まれる。
若手起業家がこの地で育てば、今後地域社会がさまざまな変化に直面しても、その都度新たな事業が生まれ、50年、100年と町が続いていくはずだ。
昨今の日本社会は、物事に対する当事者意識が薄れてきているように思える。言わば「なんとかなる」と思う範囲では取り組むものの、「なんとかならない範囲」には踏み出さない。「今の若い世代は……」と、思わず口をつきそうになるが、世代論で片づけられる話ではないだろう。
失敗のないパーフェクトに思える計画は、時に実態を伴わないことがある。変化の激しい時代に対応するには、たとえ60点、70点のスタートでも踏み出す力が欠かせない。
経験やスキルを持たなくとも、一歩を踏み出す。強い当事者意識を胸に小高ワーカーズベースは挑戦を重ね、新たな可能性を切り拓いた。いま、小高には起業家が「思い切り踏み出せる」環境や風土がある。
小高での挑戦を全国へ
ゼロから町づくりに取り組む、小高ワーカーズベース。創業支援やコミュニティ創出のほか、若い世代が地域で暮らしながら、自己実現を目指せる魅力的な生業づくりにも取り組む。
例えば『HARIOランプワークファクトリー小高』にて未経験から技術を習得した、女性職人によるハンドメイドガラスブランド『iriser(イリゼ)』の運営は、その1つだ。
和田氏は「ここ10年で小高は面白くなってきた」と話す。小高での挑戦は、着実に実を結びつつあるようだ。
一方で「やはり社会全体を良くしていかないと、せっかくいい町を作っても持続しない。小高での取り組みを、どうやってほかの地域に伝播させていくか」とも語る。
課題解決の端緒として、和田氏は石川県金沢市内にて立ち上がるガラス工房への技術支援や、奥能登地域に暮らすガラス職人候補向けに生産拠点の準備を進めるなど、小高での取り組みを各地に広げようと動き出した。
小高パイオニアヴィレッジのガラス工房
日本で類を見ない“前人未到のフロンティア”。地元出身かつIT業界で活躍し、起業経験をもつ和田氏の挑戦は稀有な例と感じるかもしれない。
しかし、強い当事者意識を持ち、多少拙くともまずは行動して可能性を拓いていく姿勢は、いかなるビジネスの創出にも通ずるだろう。
和田氏は、小高ワーカーズベースを起業した当時は「多くの人が懐疑的だった」と言う。今では「小高には起業家がたくさん集まっている」と評判だ。
どのような状況に置かれても、新たな価値は見出せる。“小高発”のローカルビジネスの新たな潮流が、世に広く波及していくことを願ってやまない。
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